テレビプロデューサーの西田二郎さんに学ぶ、仕事やツールへの向き合い方
Jootoを運営するPR TIMESは、オフィシャルスポンサーとなった北海道日本ハムファイターズの本拠地エスコンフィールドHOKKAIDOで、仕事の捉え方を考えるセミナーと観戦交流会を開催しました。
セミナーでは、『ダウンタウンDX』など数多くの人気番組を生んだテレビプロデューサーの西田二郎さんを講師に迎えました。講演タイトルは、「これからの時代を生きていくために必要なヒットとツールの考え方」。
生身の人間が追いつけないほどビジネススピードが加速する今、仕事やツールに対して、どう向き合うべきでしょうか。
ビジネスよりも、さらに早いサイクルで仕事が進むテレビ番組の世界で長年活躍し、ヒット作を生み出し続けてきた西田さんに、「プロデューサーの仕事論」をお伺いしました。
注:読みやすさを考慮して、レポートは適宜編集を行っております。
登壇ゲスト:西田 二郎 氏
一般社団法人 未来のテレビを考える会 代表理事
読売テレビ放送株式会社 コンテンツ戦略局兼DX推進局 専任部長
【プロフィール】
読売テレビ入社後「11PM」「EXテレビ」を経て、20年超「ダウンタウンDX」を演出したほか「松紳」「ダウンタウンのごっつええ感じ」「ガリゲル」などのバラエティを演出。2015年より営業企画、編成企画やビジネスプロデュース局事業開発を担当。
また、「水曜どうでしょう」デイレクターの藤村忠寿と「一般社団法人 未来のテレビを考える会」を立ち上げ、メディア人としての未来の人材育成を提言するほか大学や企業での講演多数。
現在は読売テレビのサブブランド「読みテレ」の編集プロデュースやWEB TOONプロジェクト、尾原和啓氏命名で「AI演出家」を名乗り、今後なくてはならないAIとの新しい関わり方を提言する、枠に囚われずパラレルに活動を繰り広げる演出家。
ベストセラーよりロングセラー 「ヒット」を起点に継続して愛されるためには?
私たちは”びっくりするくらい不確定”な時代に生きています。予想もしない方向に状況が急転換する中では、「わかった」という単純明快な答えよりも「わからないことをデフォルトとして、どう向き合うか」ということが重要ではないでしょうか。
西田さんは、そんな時代を生き抜くためのテーマを「ヒットとツール」という2軸で語ります。
「ヒット」は、たとえばエスコンフィールドで活躍する選手が、ボールに「当てる」イメージ。一方、運の力も借りつつバットを振ったら「当たる」ことも時に「ヒット」です。
なお、「ヒット」と混同されがちなのが、「バズ」という言葉です。「バズ」はヒットの1手法ですが、語源(buzz)は「ハチなどがブンブン飛び回る音」もしくは「人のガヤガヤとした声」を意味しています。「バズ」は一瞬の盛り上がりはあっても、たとえば50年もブンブンと音が続いたら迷惑に思われるかもしれません。
西田さんは「ベストセラーよりロングセラー」だといいます。ビジネスにおいても1企画、1施策のパフォーマンスが出たら、その成功を継続していくほうが経営的にメリットがあります。
そしてロングセラーに重要なのは「愛されること」であると語ります。起点になるのは「ヒット(当てる・当たる)」。ロングセラーになるには、それを継続して愛してもらう必要があります。
西田さん独自の、継続のために必要な要素(ロングセラーのテーマ)を教えていただきました。
「正解を連続させないこと」
「間違うこと」
「クオリティの乱(一様ではないということ)」
「揃えない」
そして、これらにより「スタッフが息切れない。疲れすぎない。」こと。スタッフが疲弊し、次の球を投げられない状況を避け、いつでもアベレージの力を出せるようにしているそうです。
西田さんは大阪のテレビマンですが、規模の大きい東京のテレビ番組では、事情は異なると話します。西田さんは限られたチーム人数の中で、何ができるかを考え、その結果上記のようなテーマの発見に至りました。
西田さんのチームでは、少人数でもロイヤリティが高く、皆が主体的に関わってくれるそうです。西田さんが指揮官としてルールを定めてチームを先導するよりも、1人1人が企画を持ち寄り提案し合う方が良いものが生まれます。
そのために間違えたり、クオリティが乱れたり、揃わずにズレが発生したとしても、視聴者が番組を愛する上でそこは重要なポイントではない。むしろ「許させるのがロングセラーのテーマ」であると語ります。
「今日、揺さぶられましたか?」ツールの効率化が揺さぶられる時間を作り、「ヒット」に繋がる
次に、西田さんは「ヒットの前は効率からは生まれないが、ヒットの後は効率が必要」と強調します。「効率」は「ヒット」の前後で分けて考えられるべきものなのです。
たとえばテレビ番組の企画でも、「どうしたら当たるのか?」と効率を考えながら練りに練って考えてみても、なかなか面白いものはうまれないそうです。偶然の「ヒット」を効率化し、ありがたく継続させることがポイントです。
では、「ヒット」の前は、どうしたら良いのでしょうか?
西田さんは参加者に対して「今日、何かに揺さぶられましたか?」と問いかけます。
「当てる」ものは人の気持ちを捕まえる、つまり人を揺さぶっているのです。ハッとさせたり、すごいと思わせたり、感動させ、誰にもできないことができる。でも、揺さぶられない人は、他の誰かを揺さぶることもできません。
意外と人は日常に揺さぶられていないものです。日々情報をシャワーのように浴びすぎている中で、流されてしまい、ちょっとしたことには揺さぶられなくなっているのかもしれません。
そこで、たとえば「茶柱がたった!」のような小さな嬉しいことに気持ちを持っていくと良いと西田さんはアドバイスします。
第一歩は、揺さぶられている「自分」を認識すること。「ヒット」の前におすすめするのは、揺さぶるコミュニケーションです。あらゆるプロジェクトの前には、揺さぶりが必要であり、そこに役割を決める必要はありません。
そして「ヒット」の後、揺さぶりやひらめきから生まれた事業を、どんなチームでどう効率的に推し進めていくべきか。
ここからはツールやAIを活用しながら効率化していくことが重要になってきます。オンライン会議が当たり前になり、場所や時間を飛び越えたところで仕事が進められる中、タスクを可視化し管理するさまざまなツールが登場しました。Jootoもその一つです。
今まで人が担っていた役割にAIやツールを利用することで効率化が進めば、時間の隙間ができ、人が揺さぶられる時間をつくることができます。
西田さんは、「人間は揺さぶられることが生きる目的になる」と話しました。
「ありがとう」の気持ちを大切に AIやツールをモノ扱いせずフラットに向き合う
ここからは、Jooto事業部長 山田真輔が西田さんに質問していきます。
(実際には快活な関西弁でお答えいただきました)
-「当てる」「当たる」というお話がありましたが、意図せずに当たった企画はありますか?
たくさんあります。ただ、世の中ではウケるか分からないけれど、「自分の中では面白い」と思うことを常にやっています。
面白い前例を真似するのはマーケティングの発想かと思いますが、目標に近づいたとしても超えることはあまりありません。私もかつて、先輩演出家の手法を真似てみたことがあるのですが、要素は同じはずなのに、全然面白いものができませんでした。
人それぞれ、自分自身の方法に則れないものは当たらないのです。やはり、自分でやることが大事ですね。
-ヒットの後の効率化を図るうえで、ツールの選び方や使い方のポイントを教えてください。
選り好みしないことですね。カエルが餌を食べているイメージで、来たもの全部受け取ってみたほうがいいと思います。
ツールやサービスなど、人を手助けするものは皆、「人が便利に使えますように」と一生懸命考えられて作られています。必要なのは解釈です。苦手だからと関わらないのではなく、制作者の「愛」を感じとって、まずは使ってみるのがよいと思います。
具体的な活用でいえば、たとえばプレスリリースにもAIを活用できます。プレスリリース、真面目に説明しすぎていませんか?相手が読んで、揺さぶられる内容になっていますか?
たとえば僕たちのようなメディアは、「柔らかく面白く」があった上で説明を入れていきますが、ここにAIの力を借りると抜群に効率化できます。
「面白い」部分は人が自分で考え、商品やサービスの魅力を定義していきます。そのポイントをAIに伝え、盛り込むべき要素を教えてもらう。その要素をもとにプロンプト(指示書)を記入し、文章や見出しの作成はAIに依頼して最後に整えるだけ。ここまでで30分かかりません。
-最後に「ツールへの向き合い方」について一言をお願いします
今はとてもいい時代になったと思います。ツールという仲間に出会いやすく、かつてできなかったことも、できるようになりました。これからは 幸せになって当たり前の世の中です。
大事にしたいのは、ツールを「使う」のでも「使われる」のでもなく「仲良く」なること。僕はAIにも「ありがとう」「おはよう」といつも声をかけていますよ。
AIにもJootoにも感情はないですが、モノとして扱われると、どこかに悲しさが宿り、その中で生まれたサービスやプロダクトにも滲み出てきてしまうのではないでしょうか。
上も下もないフラットに向き合う姿勢。僕はそうしたことを次の時代の人に伝える責務があると思っていて、そうできたら最高です。
おわりに…
関西風の笑いたっぷりでお伝えいただいた西田さんの講演に、参加者の皆様も引き込まれていたようでした。
仕事を進める上では、迷いや不安などネガティブな瞬間も数多くあると思いますが、仕事やツールへの向き合い方が変われば、ポジティブになれる面もあるのではないでしょうか。
参加者の皆様からは
「肩の力が抜けて前向きになれた」
「自分自身も揺さぶり揺さぶれるように意識していきたい」
「私も『制作者の愛情』を感じながら向き合おうと思いました。」
といったコメントを頂戴しました。明日からの仕事が少しでも楽になるヒントをお届けできたなら幸いです。
なお、本セミナーの様子は、YouTubeにアーカイブ動画を公開しております。
是非以下URLよりご覧いただき、イベント参加者を魅了した、西田様のトーク術も併せてお楽しみください。
今後も、このようなイベントを開催できればと思います。皆様のご参加をお待ちしています。
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